歌川広重の《東海道五拾三次之内 日本橋 朝之景》を見てみました。
浮世絵の「東海道五拾三次」は有名だという印象があります。また、「日本橋」という題名を見て、日本橋が東海道の出発点なのではないかと思いました。
今回は最初から作品の説明を読むのではなく、まず自分の目で絵を見てみます。
描かれている人たちは誰なのか。どの時間帯の景色なのか。何も知らない状態で気になったところを見たあと、作品について調べ、もう一度見てみました。

1. 明るい色と空のグラデーションが印象に残った
最初に思ったのは、
「橋を渡っているのは大名行列かな」
ということでした。
橋の上から何人もの人がこちらへ向かっています。東海道を描いた作品ということもあり、大名行列ではないかと思いました。
作品全体から受けた印象は明るいものです。
全体的には薄い色が使われていますが、その中に赤や青、紺色などの濃い色が所々に入っていて、きれいだと思いました。
特に好きだったのは空です。地平線に近いところには薄いオレンジ色が広がり、その上へ向かって色が変化しています。
一方、空の上の方には濃い紺色の帯があります。
朝なのか、それともまだ夜が明けきっていない時間なのか、この段階ではよく分かりませんでした。
また、最初は人物の動きに目が向いていましたが、作品全体を見ると、橋の中央へ視線が集まりやすい構図になっています。左右には大きな木の門扉のようなものがあり、その間から日本橋と人々の姿が見えています。
ただし、この段階では、これが何のための門なのかは分かりませんでした。まずは「大きな木の門扉がある」ということだけが気になりました。
2. 最初に目が行ったのは橋を渡る一団の先頭
最初に目が行ったのは、橋を渡ってくる一団の先頭にいる人物でした。
その後ろにも人が続いているため、「大名行列かな」という最初の印象につながりました。
橋そのものより、まず人の動きの方に目が向いたようです。

3. 天秤棒を担ぐ人と手前の木戸が気になった
しばらく見ていると、橋の上の一団とは別に、手前にいる人たちも気になってきました。
中でも不思議だったのが、天秤棒のようなものを担いでいる人たちです。
大名行列の前を歩いているようにも見えます。この人たちも行列の一員なのか、それとも関係のない人たちなのか分かりません。
もう一つ気になったのが、画面左右に描かれている大きな木の門扉のようなものです。
さらに、大名行列が橋を渡ったあと、どの方向へ進むのかも気になりました。道は画面手前へ伸びていますが、その先は左右の木の門扉の間へ続いているように見えます。
4. 浮世絵とは何か、日本橋の朝について知りたくなった
作品を見ていて、まず「浮世絵とはそもそも何だろう」と思いました。
浮世絵という言葉は何度も聞いていますが、どのようなものを浮世絵と呼ぶのか、きちんと説明するとなると分かりません。
そして、手前の大きな木の門扉は何なのか。
橋を渡っている人たちは本当に大名行列なのか。天秤棒を担いだ人たちは何をしているのか。空は実際に夜明けを描いているのか。そして行列は橋を渡ったあと、どちらへ進むのか。
このあたりを調べてみることにしました。
5. 大名行列と魚屋が行き交う日本橋の朝
《東海道五拾三次之内 日本橋 朝之景》は、歌川広重が描いた多色木版画です。東京富士美術館では制作年を天保4~5年(1833~1834年)とし、「木版多色刷・横大判錦絵」としています。
「東海道五拾三次」は53枚ではなく、53の宿場に江戸側の日本橋と京都側の風景を加えた全55枚で構成されています。日本橋は東海道の出発地点で、この作品は旅の始まりにあたる一枚でした。
そもそも浮世絵とは、東京国立博物館によれば、江戸時代の人々の姿や世の中の様子を描いた絵画です。最初は肉筆画が中心でしたが、のちに版画が作られるようになり、複数の色を重ねて摺る「錦絵」も生まれました。今回の作品もその錦絵です。
最初に「大名行列かな」と思った橋の上の一団は、実際に大名行列でした。先頭には先箱持ち、その後ろには毛槍や陣笠の従者たちが続いています。British Museumでは、朝日が昇るころ、大名の一行が日本橋を南へ進んでいる場面と説明しています。
一方、天秤棒を担いでいた人たちは大名行列の一員ではありませんでした。東京富士美術館では、手前にいる人々を魚河岸から帰ってきた魚屋や野菜売りと説明しています。犬も描かれています。
左右に見えた木の門扉は「大木戸」です。東京富士美術館の解説で特に興味深かったのが、大木戸や毛槍による縦の線と、橋の板目による横の線が組み合わされているという点でした。
また、空についても、作品は朝焼けを背に大名行列が日本橋を渡る場面として説明されています。最初に気になったオレンジ色と上部の紺色は、朝の景色の中に描かれていることが分かりました。
調べてみると、日本橋は東海道の起点であり、この作品は《東海道五拾三次》の旅が始まる位置にあたる一枚だと分かりました。
また、画面には旅へ向かう大名行列だけではなく、魚屋や野菜売りなど、朝の江戸で働く人たちも描かれています。
大名行列という特別な一団と、日常の仕事をしている人たちが同じ場所に描かれていることも、この作品の場面を理解するうえで分かりやすいところでした。
6. 作品を知ってから夕方には見えなくなった
作品について調べてから、もう一度全体を見てみました。
一番変わったのは、時間帯の見え方です。
最初は空を見ても時間帯にはっきりした確信がありませんでしたが、「朝之景」であり、朝焼けの中を大名行列が進んでいると知ってから見ると、夕方の景色には見えなくなりました。
一方、色がきれいだという印象は変わりませんでした。
もう一度じっくり見ていると、橋のもとに犬が2匹いることにも気づきました。
また、橋を渡り終えた手前の場所を見ると、道が横方向にも広がっているように見えてきました。最初は大名行列がどこへ進むのかばかり気にしていましたが、その周囲にも目が行くようになりました。
そして、大木戸だと分かってから見ると、左右に開いている幅が思っていた以上に広く感じられました。
もう一度見たときには、最初には気づかなかった犬が橋のたもとに2匹いることにも目が向きました。
最初は大名行列の方に目が行っていたため、こうした小さな部分までは見えていなかったようです。
また、橋を渡った先の地面を見ると、道が手前へ一直線に続くだけではなく、横方向にも広がっているように見えました。
そのため、大名行列がこのあとどの方向へ進むのか、最初に見たとき以上に画面の外側まで考えるようになりました。

7. 縦と横の線に気づき、行列の前の人々には疑問が残った
調べて「なるほど」と思ったのは、縦の線と横の線についての説明です。
大木戸や毛槍の縦方向の線に対して、橋には横方向の線があります。
最初に見たときには特に意識していませんでしたが、説明を読んでから見ると、確かに縦と横の線が組み合わされています。
一方で、まだよく分からないことも残りました。
天秤棒を担いでいるのが魚屋や野菜売りだということは分かりました。しかし、大名行列のすぐ前を普通に歩いていてもよかったのでしょうか。
絵を見ると、行列の前を横切っているようにも、道を空けようとしているようにも見えます。
今回確認した資料では、この人たちが大名行列に対してどのように動いているのかまでは分かりませんでした。この点は、まだ疑問として残っています。
大木戸についても、名前を知ってから見直すと、左右に開いている間隔がかなり広く感じられました。
さらに、作品解説にあった縦線と横線を意識すると、大木戸や毛槍の縦方向の線と、橋の板の横方向の線が確かに目に入ります。
最初に見たときには特に意識していなかった部分ですが、説明を読んでから見ることで、構図の特徴が見つけやすくなりました。
8. 最初より好きになり、色々な想像ができる作品になった
今回、作品について調べてからもう一度見たことで、最初よりこの作品が好きになりました。
最初から感じていた色のきれいさは変わりません。
その一方で、大名行列、魚屋や野菜売り、大木戸、犬など、何をしているのか考えながら見るものが増えました。
特に、魚屋や野菜売りは大名行列の前でどう動いていたのか、橋を渡った行列は画面の外でどのように進んでいくのかなど、絵の中に描かれていない部分まで色々と想像できます。
今回最後に感じたのは、色々な想像ができて面白い作品だということでした。
知る前と後で変わったのは「時間」の見え方だった
最初に《日本橋 朝之景》を見たときには、大名行列らしい一団と、オレンジ色から紺色へ変わる空が気になりました。
作品について調べると、橋を渡っているのは大名行列で、手前にいるのは魚屋や野菜売り、左右にあるのは大木戸だと分かりました。
もう一度見ると、夕方には見えなくなり、大木戸の広さや犬、橋の手前の道にも目が向きました。
一方で、大名行列の前にいる魚屋や野菜売りが実際にどう動いているのかという疑問は残っています。
すべてが分かる必要はなく、分からないところから想像できるのも、この作品を見ていて面白かったところです。
同じ作品でも、人によって目に入る場所や気になるところは違うかもしれません。気になった方は、人物だけでなく、空や道、左右の大木戸までゆっくり眺めてみるのも面白いと思います。
作品・画像情報
作品名: 東海道五拾三次之内 日本橋 朝之景
作者: 歌川広重(初代)
制作年: 天保4~5年(1833~1834年)頃
所蔵先: 東京富士美術館ほか、複数の摺りが現存
画像素材:
「センペンバンカ 世界&日本の名画コンプリートセット Win&Mac版」収録画像
収録元:
センペンバンカ 日本の名画808
画像加工:
作品全体画像は縦横比を維持して掲載。
アイキャッチ画像・本文中の部分画像は必要に応じてトリミングして使用。
※木版画のため同じ図の複数の摺りが現存しています。また制作年代の表記には所蔵館によって多少の幅があり、東京富士美術館は1833~1834年、British Museumは1833~1835年頃としています。富士美社
参考にした主な資料
東京富士美術館「東海道五拾三次之内 日本橋 朝之景」
作品年代、技法、大名行列、魚屋・野菜売り、大木戸、構図などを確認。
東京富士美術館 作品ページ
東京都江戸東京博物館「日本橋 描かれたランドマークの400年」
「東海道五拾三次」が55枚で構成されること、日本橋と作品構図について確認。
江戸東京博物館 展示資料
東京国立博物館「日本文化のひろば―浮世絵」
浮世絵、木版画、錦絵について確認。
東京国立博物館 浮世絵解説
British Museum「Hiroshige large print guide」
日本橋を渡る大名行列と制作年代について確認。
British Museum 作品解説
