アルチンボルド《春》を見た感想|花だけで表情が見える不思議な肖像画

アルチンボルド春 西洋の名画

画像集を見ていると、少し変わった肖像画が目に入りました。

アルチンボルドの《春》という作品です。

人の横顔のように見えるのですが、顔も頭も、たくさんの花でできています。最初に画像を見たときには、絵というより「花を人の顔の形に並べて、それを写真に撮ったのだろうか」と思いました。

それくらい、一つ一つの花がはっきりと描かれています。

今回は、いつものように作品について先に調べず、まず自分の目だけでじっくり見てみることにしました。

アルチンボルド春

1. まず何も調べずに作品を見ると、顔は花だらけだった

最初に感じたのは、「顔が花だらけだ」ということでした。

人の横顔になっていることはすぐ分かりますが、普通の肖像画のように肌を描いているわけではありません。大小さまざまな花が集まり、それによって額や頬、鼻、口などが作られています。

最初は、実際の花を顔の形に並べたものを撮影したのかと思ったほどでした。

それでも全体として見ると、きちんと人の顔に見えます。しかも、私には少し微笑んでいるようにも見えました。

個々の花を見るときれいな花の集まりですが、少し離れて全体を見ると人の表情になる。この見え方が特に不思議でした。

一方、画面全体は明るいという印象ではありません。顔には赤や白など明るい花が多いのですが、頭の後ろや胴体は暗く見えます。

全体が暗い中で、花でできた顔には春らしい明るさを感じました。

2. 最初に目が行ったのは、花が集まった頬の部分

最初に目が行ったのは、頬のあたりでした。

頬を中心に小さな花がぎっしりと集まっています。

アルチンボルド春

頬だけではなく、鼻や口の周辺にも花があります。それぞれを見ると普通の植物なのに、少し離れると鼻や唇、頬に見えます。

特に面白いと思ったのは、これだけ花ばかりなのに表情まで分かることでした。私には、この顔が少し微笑んでいるように見えます。

大きな花を単純に並べただけではなく、小さな花や花びらも使われているため、顔の細かな形までできているように見えました。

3. 眉毛は何でできているのだろう

しばらく眺めているうちに、今度は眉毛が気になりました。

目や鼻、口は花や植物で作られていることが何となく分かります。では、眉毛に見えるところは何なのだろう。

眉毛も植物なのであれば、本当に顔全体が植物でできていることになります。

もう一つ気になったのが、顔とそれ以外の部分の明るさの違いです。顔には白、赤、ピンクなどの花が多く、かなり明るく見えます。

ところが頭の後ろや肩から下では濃い緑や暗い色が増えます。背景も暗いため、花でできた顔がより目立って見えました。

遠くから見ると人物、近くで見ると一つ一つの植物。この二つの見え方があるところも面白く感じました。

4. 《春》には本当に春の植物だけが描かれているのだろうか

見ているうちに一番知りたくなったのは、

「ここに描かれているのは、本当に春の植物だけなのだろうか」

ということでした。

題名が《春》なので、春に咲く花や植物を集めて人物を作っているようにも思えます。

しかし、これほど多くの種類が描かれていると、本当に全部が同じ時期の植物なのか疑問になります。

また、気になっていた眉毛が何でできているのかも知りたくなりました。

そして、そもそもアルチンボルドは、なぜ植物を組み合わせて人の顔を描いたのでしょうか。

単に面白い顔を作ったのか、それとも《春》や植物で人を表すことに別の意味があるのか。このあたりを調べてから、もう一度作品を見ることにしました。

5. 《春》について調べると、約80種類もの植物が使われていた

今回見ている《春》は、ジュゼッペ・アルチンボルドが1573年に制作した油彩画です。ルーヴル美術館の所蔵作品で、現在はルーヴル・ランスに展示されています。大きさは縦76cm、横63.5cmです。

《春》は一枚だけの作品ではなく、《春》《夏》《秋》《冬》からなる「四季」の一枚でした。1573年の4作品は、神聖ローマ皇帝マクシミリアン2世がザクセン選帝侯アウグストへの贈り物として注文した可能性が非常に高いと、ルーヴル美術館は説明しています。アルチンボルドは1562年からハプスブルク家の宮廷で働いていました。

《春》には非常に多くの植物が描き込まれています。ルーヴルの資料では79種類、ナショナル・ギャラリーの資料では約80種類の花の植物が確認されています。ルーヴルの資料では、肌や唇にはバラの花びらや蕾、目にはベラドンナの実、歯にはスズランが使われていると説明されています。

アルチンボルド春

また、描かれている植物はすべてが同じ時期に咲くわけではありません。ナショナル・ギャラリーは、アルチンボルドがそれぞれの植物が咲いた時期に個別の資料を作り、後から一つの作品に組み合わせたと考えています。

そのため、「春のある一時期に咲いている植物だけを、そのまま一度に描いた」という作品ではないことが分かりました。

さらに《四季》は、単なる植物のだまし絵だけではありません。ルーヴル美術館では、自然界の秩序と政治的な権力を重ねた寓意的な意味もあったと説明しています。ただし、アルチンボルド本人が《春》を描きながら何を感じていたのかという個人的な心情までは、ここから断定することはできません。

最初に気になった眉毛が具体的に何という植物なのかについては、今回確認した資料では特定できませんでした。

6. 作品について知ってから見ると、一つ一つの花が気になった

作品について調べてから、もう一度《春》を見てみました。

全体を見たときに写真のようにきれいに見えるところと、拡大すると一つ一つが花の絵に見えるところは、最初に見たときと変わりませんでした。

改めて目に入ったのは、頬の赤い部分です。

最初は顔を作るために全体として色を付けているようにも見ていましたが、よく見ると色は花単位で変わっています。

赤く見えるところには赤い花があり、白く見えるところには白い花がある。顔の色を塗り分けているのではなく、それぞれの植物の色を使いながら顔全体を作っているように見えました。

7. 黒い花びらだと思っていた目は、ベラドンナの実だった

調べて「なるほど」と思ったのは、目の部分です。

最初に見たとき、私は目の黒い部分も花びらのようなものだと思っていました。

ところが、資料を確認すると、目に使われているのはベラドンナの実でした。

顔が花でできている印象が強かったため、黒い部分まで花だと思っていたのですが、実も組み合わせて人物の形を作っていることが分かりました。

もう一つ印象に残ったのが、植物の開花時期です。

約80種類もの植物はすべて同時に咲くわけではありません。それでも作品の中では、それぞれが咲いた状態で一つの人物を作っています。

最初に疑問に思った「春の植物だけを一度に見て描いたのだろうか」という点については、植物ごとの資料を使いながら一枚に組み合わせたと考えられていることが分かりました。

8. 最初より好きになった、それでもやはり不思議な絵

今回、作品について調べてからもう一度見たことで、《春》は最初に見たときより好きになりました。

特に印象に残ったのは、個々の植物の描き方です。

大きさについては人物の形を作るために調整されているものもあると思いますが、形や色についてはかなり正確に描いているのだろうと感じました。

全体を見れば一人の人物なのに、近づけば一つ一つの花や実になります。

作品について知った後でも、最後に残ったのは「不思議な絵だ」という感想でした。

まとめ|人物と植物、二つの見え方がある《春》

アルチンボルドの《春》を最初に見たときは、「花を顔の形に並べて写真を撮ったのだろうか」と思いました。

顔は花だらけなのに表情まで分かり、私には少し微笑んでいるように見えました。

調べてみると、《春》には約80種類もの植物が使われ、目には花ではなくベラドンナの実が使われていることも分かりました。また、植物の開花時期は同じではなく、それぞれの資料をもとに一つの人物として組み合わせたと考えられています。

もう一度見ても、全体では写真のようにきれいに見え、拡大すると個々の花に見えるという印象は変わりませんでした。

ただ、植物一つ一つの形や色を見るようになり、作品については最初より好きになりました。

同じ作品でも、全体を見るときと細部を見るときでは、目に入るものがかなり違います。気になった方は、《春》を一度人物として眺め、その後で花や実を一つずつ見てみるのも面白いと思います。


作品・画像情報

作品名: 《春》(Le Printemps)
作者: ジュゼッペ・アルチンボルド
制作年: 1573年
所蔵先: ルーヴル美術館 絵画部門(現在はルーヴル・ランスで展示)

画像素材:
「センペンバンカ 世界&日本の名画コンプリートセット Win&Mac版」収録画像

収録元:
センペンバンカ 世界の名画606

画像加工:
作品全体画像は縦横比を維持して掲載。
アイキャッチ画像・本文中の部分画像は必要に応じてトリミングして使用。

参考にした主な資料

作品名、制作年、サイズ、所蔵、1573年版《四季》の来歴については、ルーヴル美術館公式コレクションを中心に確認しました。植物の種類や開花時期については、ワシントン・ナショナル・ギャラリーのアルチンボルド展資料も参照しています。

ルーヴル美術館公式コレクション《春》
National Gallery of Art「Arcimboldo: Nature and Fantasy」